6人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉に俯いてしまう。
「怖いか?」
なにも答えられない。
「確かに一人で歩くのは怖い」
男は腕を組み静かに頷いた。
「だがな一人じゃない」
俯いた顔をげ、男の顔を見た。上
「そのうち、誰かと道を歩む事になる」
―誰かと……。それは誰?―
「それはこの道を進めば分かる。ただ今言える事は、それはお前の大切な人だ」
―…………―
「その人の手を決して離す事なく歩み続けろ」
誰かに言い付けるかのように言う。
「分かったら行け。まぁ分からなくても行け」
そう言うと、一人でカラカラと笑い出した。
その笑顔を見ていたら、進まなければ行けない気がして道の先を見る。
歩み始めようと思い、最後に男の方を見ると。
「じゃあ、気をつけてな」
男は笑顔のまま言う。
―アナタは進まないの?―
気になって聞いてみた。
その瞬間、男の顔が険しくなった。
「いいから行け」
優しい口調だが、どこか痛い声だった。
無言のままその場を離れた。
怖いのではない、何故かいたたまれない気持ちになったのだ。
歩いていると後ろから声を掛けられた気がした。
振り返るとそこに男の姿は無く、大きな岩があるだけ。
『お前は俺みたいに立ち止まるなよ』
確かにそう聞こえた。
どういう意味だったのか。
前を向き直して進むが、その意味は分からずじまいだった。
その岩にはこう綴られていた。
『愛するモノと何時までも共に。
共に歩み続けよう。
君が歩みを止めてしまっても私はずっと傍にいよう。
それが永久なものだとしても……』
この岩は、お墓。
大切なあの人が眠っている。
だから、私は此処にいる。
決して前に進まない。
何時までも一緒にいよう。
これからもずっと……。
最初のコメントを投稿しよう!