1:Run fast in the Main Street.

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 看板のように縁取られた、シンプルな四角い枠の中には、そのように書かれていた。並んだ二つのアルファベットの下には、『MEDDLESOME』、『ZESTFUL』とそれぞれ小さく意味が記されてもいる。 「……探偵だったのか……」  意外なようにも、一方納得したようにも、ミウは呟いた。  そのまま彼女は、家、もとい店をぼんやり眺めていた。建物自体も飾り気の無い、しかしあまりに簡素なわけでも無いつくりで、彼女らしいと感じていた。  自分の家のすぐ裏に、いつの間にこんな所が出来ていたのか。たぶんそう昔からあるわけでは無いのだろうが、近所付き合いの無さがここで響いて来るとは。いや、別に町内の掃除をサボったりとかしてたんじゃ無いんだが。むしろ向こうの方ではなかろうか。 「……あ!もう昼だし!」  とか何とか考えていたが、彼女は即座に自分の懸案事項を思い出した。なんで今まで気にしていなかったんだよ。とそう自分に尋ねつつも、慌てて自転車に乗って走り出す。  彼女にとっては、正直時間の無駄だったと言えなくもない。しかし彼女は、別に愚痴るでも嫌な表情をするでもなく、単に焦った表情で自転車を漕いでいた。それだけであった。 +++++  家に再び戻って来た時、ミウはあからさまに疲れきった様子だった。目には光が無いし、ペダルを踏む力も弱々しく、自転車が横に倒れてしまいそうでもある。  ところで、時刻はもう午後五時に近付いている。実質、ほぼ1日じゅう探し回ったわけだが、彼女が無くしたという物は見つからない。さっきから十秒おきに溜め息を吐く彼女は、自転車を止め、敗戦報告を告げる兵士のような足取りで玄関を開けた。 「あ、お帰りなさい」  扉を開けるとすぐ、母が迎えてくれた。ミウとは対照的に、何やらニヤニヤした顔をして、手は後ろに回して何か隠しているらしい。 「……なに?」 「ウフフ……これ、さっきお客様が来てね、あんたに渡してってさ」  そう言って母は、手に持っていた物を見せた。怪訝そうな表情のミウだったが、それを見た瞬間、一気に全身に衝撃が走った。 「あああーっ!!あたしの携帯!!」  携帯、そう、その手の中のビビッドなピンク色の携帯電話こそ、彼女の探していた物だった。驚愕と喜びが同時に彼女を包み、瞬時にそれは元の手に渡る。  だがその時、母は一つの封筒をも手にしており、それもまた、ミウに受け取られた。
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