2:The mind is capricious.

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「……ん……」  少しした所で、その女性はゆっくりと目を開けた。半開きの口から声が漏れ、ひどく緩慢とした動作で起き上がり、そして、ミウの存在に気付いた。 「……あっ!御用の方ですか!?すみませんすみません!」  途端に目をパッチリと見開き、彼女は慌ててイヤホンを外し、目の前の乱雑な書類やらメモやらを片付けた。はずみで、ペンなどが床へと落ちる。 「あー、いえ……アイルさんに会いに来たんですが……」  明らかに動揺している彼女に若干怯みつつ、ミウはそう告げた。たぶんこの人はバイトか何かで、まだ日が浅いのだろう。とミウは思った。それにしては、堂々と寝過ぎな感もあるが……。 「え……お友達ですか?」 「はい、まあ」 「でしたかー……階段を登ってすぐ右の部屋におりますので、あちらからどうぞ」  そう言って彼女は、片付けに一段落つけ、奥の方の扉を指す。そこが階段となっているのだろうか。ミウは部屋全体を見渡しつつ、彼女の話を聞いた。 「ありがとうございます。じゃ、上がらせていただきます」  彼女の相槌を受けながら、ミウはあっさり、事務所の奥の方まで進んで行けた。  女性は見送ると再び慌て始め、自分が汚した書類を必死で復元しようとしていた(服で拭こうとしていた)。その様を横目に、ミウは階段に足をかけ、扉を閉めた。 「(良いのかな……あの人、あんまりしっかりはしてなさそうだけど……)」  流石に、ミウも心配になっていた。こうもあっさり入れてしまって良いのか。警戒という言葉はあの人に無いのか。  ともかく、彼女は言われた通りに階段を登って、右の部屋の前に立つ。ドアは半分開いていたが、一応ノックした。それから、入れる程度までそれを押し開けた。  するとそこには、何というか、色々と予想外な光景があった。入口から見て左に、ベッドに寝転がるアイルがおり、右にはテレビがある。その間には2本のコードが走っていて、一つはイヤホン、もう一つは、ゲーム機のコントローラの物だったのだ。 「タラル、何かあった?」  まずミウに浴びせられたのは、その言葉だった。アイルの視線は画面に固定されており、その熱中度が窺える。どこの引きこもりかと、ミウは突っ込みたい衝動に駆られた。 「いや、あたしなんだけど……」  しかしてミウはまず、アイルの発言から指摘した。直後、彼女の指が一瞬止まり、ゆっくりミウへ目を向ける。
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