1:Run fast in the Main Street.

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 朝というのは大抵、慌ただしく、余裕を持てない時間だ。あと何分かしたら、学校や仕事へと出かけなければならない。そういった、強迫観念にも似た感情に囚われてしまえば、どうにも落ち着き難く、得てして判断力を欠いてしまうものだ。 「行って来ま~す!」  そしてここにも、そのような状況に晒された者が一人居た。玄関のドアを壊さんばかりに勢い良く開き、ぴょいと飛び出したのは、今時の格好をした赤毛の少女だった。 「気を付けなさいよ!事故だけは起こさないでね!」 「わーかってるって!急がないと!」  母親からの忠告を意に介さず、気持ちの良い朝日もさておき、少女は愛用の自転車に跨がった。  彼女の見た目はティーンエイジャー、ハイスクールの生徒といったところだが、今日は日曜日である。授業でもないのに、顔には焦りやら動揺やらが露見しており、何らかの事情を窺わせている。素早くペダルに足をかけ、タイヤで庭の芝生を削り取りながら、彼女は道路へ出た。そのまま直角ターンしてスピードを上げる。 「やんなるなぁ……なんでこうなったんだか……」  通りを爆進しながらも、呟きが漏れた。近所の犬の無作法な声援を受け、彼女は毎日のように通る道を走り続ける。 「よりによってなんで……全くもう運が悪……」  高速でかつ喧しく音を立てながら、彼女は長い塀を右手に、交差点に差し掛かる。  とその瞬間、急に人影が飛び出してきた。目の前にいきなり想定外の事態が現れ彼女はわっと声を上げる。  しかも、その人は両腕を構えており、彼女を自転車ごと受け止めたのだ。衝撃で後ずさりしながらも、二人は止まる。一体何がどうなったのか分からなかった。 「ちょっと!いきなり何を……」  彼女は当然、立腹気味に声を荒げる。だがその直後、目の前を巨大なトラックが横切っていった。 「(……え?)」  彼女はその様を見て、思わず絶句していた。スピードはそれなりに出ており、もしこの人が出てきて止めていなければ……考えるだけで身震いがする。力が抜けたように口を開け、少女はトラックの背中を眺めていた。 「……大丈夫だった?」  何秒か経ったところで、自分と自転車を掴んでいた人から声があった。少女は意識を引き戻され、前を向き直す。 「え、あ、はい。まあ……」  呂律の微妙に回らない中、少女はなんとか答える。何と言ったらいいのか、再び脳が混乱に陥りだす。
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