2:The mind is capricious.

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「あ……ちょっとセコいってそれー!」  アイルの策に、たまらずミウは情けない声を上げる。加えて彼女はこの時、新登場の武器を使っており、明らかにミウの対応は遅れていた。つまり、初めからハンデの差があったのだ。 「まだまだ、自分には及ばないね」  さらりと勝利宣告を言ってのけ、アイルはそのまま押し切った。多分に大人気なくはあるが、下手に手加減する趣味など持ち合わせていなかったようだ。  画面には、『WIN』と『LOSE』の文字がそれぞれ表示され、続けて選択肢と共に『RETRY?』と真ん中に記されている。ためらわず、ミウはイエスの選択を押そうとした。 「姉ちゃ~ん……お仕事……」  しかし直前に、タラルの声がドアの外から響いてきた。今度こそ気を付けたぞ、と言わんばかりの、しかしやはり怒られるのが怖い、という微妙なイントネーションだった。  アイルとしても、再戦に乗り気だったのだろうか、声を聞いた瞬間に表情を険しくした。だが仕事は仕事であり、淡々とゲームを終わらせ、本体の電源を切った。 「はいはーい……仕方ないか」  アイルのその声には、一抹の寂しさが込められていた。ミウも同様らしく、名残惜しいといった様子で、片付けを手伝っている。 「続きはまた今度な」 「……そうするわ」  お互い、まだ何か言いたげではあった。表情は双方とも、微妙な笑顔となっている。  しかし、今日以降も、会う機会は沢山あるだろう。だから、あっさりと一旦の別れを告げる事が出来た。  二人は部屋を出て、階段を降り、仕事場への扉へ向かった。それを開けた瞬間より、アイルは局長へとシフトチェンジし、平生の無表情にキリッとした変化を入れる。傍目には分からんが。 「それじゃね」  受話器を手に、まだ仕事先から話を聞いているのであろうタラルを横目に、ミウは探偵局を出た。  簡素な扉の向こうには、休日として、いつも通りの風景が広がっていた。歩行者の量もほどほどに、閑静という程でもないが静かな住宅街。ミウにはなぜか、探偵局の扉が別世界との扉のように思えてしまった。  まだ朝が少し過ぎた程度であり、遊びに行くには十分だ。どこに行こうか迷いつつ、ミウは自転車に跨がる。そしてペダルをこぎ始め、道に出る時、脳裏にアイルの顔が浮かんでしまった。見慣れてきた筈の彼女の目が、今日は印象に残っていた。
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