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「ミウさんじゃない?」
「……あ、フレス君!」
その顔に、彼女は目を丸くさせられた。どころか、微妙に頬が赤みを帯びてきている。
その自転車の少年は、フレス・プリオースと言い、ミウと同じクラスの生徒だ。そして、ミウが少しいいなと思っている、いわゆる淡い憧れの存在でもあった。
「偶然だね。どっか行ってたの?」
「ま、まね……でも今から、ちょっとパンでもって……」
「そうなの?僕もちょうど食べたかったんだけど。セイン・ゲル・パン」
その言葉を聞いた瞬間、ミウの心の中に花火が打ち上がった。目は輝きだし、心拍数は増え、血圧も高まり、あと見た目何となく可愛さが増量された。
ミウは、状況の流れを読み、一つの提案を思い付く。後は、そこに勇気を込めるだけだった。
「あ!じゃ、じゃあさ、一緒に食べてかない?……いや、別に嫌だったら嫌で良いんだけど……」
「?オッケーだけど?」
「ホ、ホント!?」
見事、彼女の勇気は功を奏し実を結ぶ形となった。ミウの顔が、あからさまに輝いていく。
二人は並び、信号が赤に切り替わった瞬間、共にスタートした。良い子は自転車の並列なんてしないように。あと狭い路地とかで車をかわす時、両ハジにそれぞれ寄らないように(力説)。ともかく、二人は目当てのパン屋に到着し、自転車を停め扉に向かった。
扉を開けると、店員の挨拶がまず耳に届き、同時に新作の広告が目に入ってくる。いつもと同じ筈が、一緒に居る人が違うだけで、全く違う世界に感じられた。
「あ~、良い匂い」
先を行くフレスに見とれ、プラ・トレーとプラ・トングを取るという、普通の行為もぎこちなくなる。先程は淡い憧れと描写したが、それよりも少し上を行っているだろうか。
ミウはひとまず落ち着き、いつものクロワッサンを取った。するとフレスも、同じ物を取っていた。また赤くなるミウだった。
「アレレ?風邪でも引いたの?」
それに突っ込みを入れたのは、レジ係になる、ミウの友達だった。彼女は状況を察したらしく、ニヤニヤしながら、二人を待ち構える。
結局、代金はフレスが払ってくれた。ミウはと言うと、さっきから何を話したのか覚えていなかった。いや、ちゃんと喋れていたのだろうか?幸せなテンパり方だ。
「窓際がいい?」
そう尋ねられ、なんとかはいと答えたミウは、彼に従い席に着いた。手入れの行き届いた窓からは、外がよく見える。
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