2:The mind is capricious.

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「あの……」  そこで、恐縮した風ながらも、フレスは声を出した。顔は圧倒された時のままであり、愛想笑いを作りながらも、事態を飲み込めない感じでいる。 「……ああ、自分はミウ君の友達で、アイル・ポンデケージョ。気軽にアイポンとでも呼んで」 「は、はあ……」  そしてフレスが次の台詞を言うよりも早く、アイルは彼の方を向き、口早に自己紹介した。彼は彼女と初めて目が合い、改めてその目力に怯んだようだった。とても気軽に接せるとは思えない。 「……でさ、仕事って?まさか尾行?」  その空気に業を煮やしたミウは、やはり不快そうにアイルに言った。  しかし直後、アイルは目を見開くようにして、ミウを睨んだ。彼女がこの上なくビビるのと、フレスが純粋に驚きの顔を見せるのは、同時のタイミングであった。 「なんでそこで当てるのかね君は……こっちがバレないよう目立たないよう気を遣ってるのに……」 「ご、ごめん……」 「もしかして……探偵さんなんですか?」 「君ももう少し小さい声で言おうか」  アイルの指摘が、素早く二連発で飛んだ。その顔は相変わらず無表情だが、単純に怖く、この学生二人に対するある種の怒りに満たされている、という感じだ。  アイルは席に深く座り直し、コーヒーをグッと飲む。気持ちを落ち着けるように溜め息を吐き、自分の正面の壁を見る。  フレスは喋りきれず、ミウは何を話そうか迷っている。が、意を決したように、彼女の耳元に口を近付けた。 「あー……じゃあアレ?この店にターゲットが来てるとか?」 「急に声小さくしなくても良いよ。逆にバレるから」  そのミウの行動も、アイルはバッサリ切り捨てた。このあたりが、人生経験の差と言えようか。  ミウは一層恐縮してしまい、自分の席に直り、ややシュンとしてしまう。 「……実際、その通りなんだけどね。ホントは店の外で待ってようと思ったけど……」  ミウの様を見て、アイルはフォローするような口振りで言う。が、言いかけて最後までは言わなかった。『君らに見つかったから、何か喋られるといけないと思った』とまでは、流石に言えなかったのだ。 「まー詳しくは言わないけどね。関係者の情報は漏らさないのが原則だし……自分も何か貰お」  そう言って、アイルは唐突に席を立った。そして列に再び並び、展示されたパンの品定めを始める。
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