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テーブルには、ミウとフレスの二人だけが残された。本来の形に戻った格好だ。
例えがたい空気のまま、二人は顔を見合う。互いに精神的疲れが見られた。
「あー、えーと……」
「……凄い友達だね」
「……まーね……」
呆れた口調で言うフレスに、ミウも同様のノリで返した。先の緊張は、完璧にどっかへ吹っ飛んで消え去っている。二人はそのまま無言になって座っていた。
しかしその後、店のツリーチャイムが高く綺麗な音を鳴らした。前後して、店員もありがとうございましたと大きな声を上げている。
はたとドアの方を見、続けて窓の外へ目をやったミウだが、そこにアイルの姿が確認できた。彼女は軽く手を振り、そのまま立ち去ってしまった。
「えと……もう、ターゲットが行っちゃったのかな?」
ミウはそう推理し、小さく声に出した。あるいは、気を遣ってくれたのか、とも思った。恐らくは両方だろう。
「かもね……あー、やっとゆっくり出来る……」
「そだね……え?」
正直な台詞を呟いたフレスに、思わず、ミウは振り向いて目をまじまじと見つめてしまった。
「(今の言葉って……え?あ?えー?)」
アイルが居なくなったことで、ゆっくり出来る……逆に言えば、ミウと二人で居るこの状況は、彼にとって落ち着ける、という事になる。
彼の発言を何度も反すうし、ミウは再び顔を赤らめた。自分と彼の心の距離が、今日でグッと近くなったと理解したのだ。
それから、十数分程度の間、彼女は幸せだった。いよいよお昼が近付き、帰らなくてはならなくなるまで、会話と、状況を楽しむ事が出来たのだった……。
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その日曜日の夜、人通りの少なくなってきた頃、一人の女性が住宅街を歩いていた。あからさまに無用心であり、ある意味格好の的と言える。
そしてその後方に、一人の男性の影もあった。先を行く女性と一定の距離を保つように動いており、彼女の行く方向に、違わず付いていこうとしている。
もう少し行けば、彼女の家だった。だが、手前で彼女は立ち止まり、辺りを警戒するような仕草を見せる。男性は気を付けて身を隠し、暫し顔だけを物陰から出していた。
「もしもし……」
その時、彼は誰かに声をかけられ、肩を触られた。彼女を追い掛けている自分を、更に追い掛けている存在に、彼は気付いていなかったのだ。
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