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「行ってきま~す」
さて、翌朝となった。コワーサン家からは、いつもの平日通り、自転車で颯爽とミウが出ていく。以前より少し早めだが、それは一週間程前からの事である。探偵局の前を通ってから行くようにしているのだ。
そうして新しい習慣にのっとって、彼女は本来の通学路から外れ、即座に裏手へ回る。曲がり角に気を付けつつ、通りへ出ると、そこには二人の女性が立っていた。
「ではお気をつけて」
「どうも……ありがとうございました」
一人は、見慣れたアイルだ。しかしもう一人、頭を下げた長髪の女性の方は、見覚えが無い。
やや大きめのバッグを持った彼女は、振り返って去っていく。ビジネス・ウーマンという印象だ。
「おーい……今の誰?」
そそくさとアイルへ寄り、挨拶代わりにミウは質問をぶつける。アイルもミウに気付き、ゆっくりと振り向く。
「おはようぐらい言え。まあ良いとして、お客さんだよ」
「お客さん?」
その言葉に興味をそそられたミウは、笑顔を湛え自転車を降りた。一方アイルは、後にかけられるだろう質問を予想したのか、あまり気乗りしない風でもある。
「なんかの依頼?それこそ浮気調査とか?」
しかし、表情をいつもの通りに変化させていないアイルの心情を、ミウが読み取れる筈もなかった。ホラ来たよ、とばかりにアイルは少し遠い方向を見る。
「……ま、ちょっとぐらい良いか」
アイルは視点を変え、先の女性が完全に見えなくなった事を確認する。結果、悪魔の囁き(?)に負けた形になる彼女は、いかにも興味津々というミウへと口を開く。
「さっきの方、ストーカー相談で来たんだよ」
「え?ストーカー?」
ミウは目を丸くし、意外そうな表情を作っていた。口調も、質問調に、語尾を上げている。
「探偵って、そういう事もやってるの?」
「それだけじゃないよ。素行調査、信用調査、人捜し、盗聴対策、DV対策……」
「そ、そんなに?」
ミウは単純に、驚きのリアクションを取っていた。そうでなくては、個人情報は流さないという絶対原則を侵した甲斐がない。良い反応に、アイルは微笑を作る。
「……探偵てのはさ、秘密を暴く職業とか言われてるけども、自分は誇りを持ってるね」
ミウの素直さに良い気分になったのか、アイルは自分から語り始めた。想像を超えた事実に圧倒されていたミウは、その話にも引き込まれる。
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