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「探偵っていうのは、十分社会に貢献出来る仕事なんだよ。だから自分は、毎日ハッピーだね。まだこの町では始めたばっかりだけどさ」
そう語るアイルは、いつに無い熱っぽさを顔に帯びていた。いや、彼女は相変わらず無表情なせいで、一週間顔を合わせてきたミウにだから分かる、微妙な変化でしかなかったのだが。
「へぇー……そうだったんだ……」
その言葉に、ミウは心を動かされていた。今まで自分がイメージしていた探偵と言えば、ストーカー紛いの事をして、離婚の手助けをするような職と思っていた。
しかし、真の実情はそういうものでもないらしい。目の前の彼女こそ、その証拠だ。
……が、ミウには引っ掛かる言葉もあった。その事を、臆せず尋ねる。
「『始めたばっかり』って?確か探偵は三年ぐらい前からなんでしょ?」
「ああ、この町に引っ越してきたのが十日前っていう意味。こいつとね」
その時ちょうど、事務所の奥の方から、目をこすって歩いてくる女性が現れた。ミウも昨日会った事のある、アイルの妹だ。
「(タラルさん……だったっけ)」
彼女は、キビキビした印象のあるアイルと違い、いかにもどんくさそうなイメージを持たせる。ミウから見ても、正直あまり似ていないように思えた。暗い茶という髪の色は同じだが、長めに伸ばして後ろで結んでおり、背もアイルより少し高い。
「まだ早いじゃん、姉ちゃん……もう少しゆっくりと寝かせてくれても……」
「アンタは遅すぎ。行くアテが無いって言って拾ったんだから、もう少し貢献しろよ」
そのタラルが、やや小柄なアイルに叱られているのは、どうにもこっけいに映る。タラルは慣れているのか、別に反省するでも聞き流すでもなく、相槌を打っている。
「……あ、もう行かなきゃ。じゃね」
ちょうどタイミング良く、事務所内の時計が目に入ったミウは、再び自転車で駆けていった。アイルも短く別れの挨拶と手振りを返し、状況が飲み込めないタラルに何か説明していた。
今朝は彼女にとって、色々な事が知られた日だった。いつにない充実感と共に、彼女は意気揚々と学校に向かう。
もっとも、このあと教室内で、昨日のフレスとの事でからかわれ倒す未来が来ようとは、全く想像もしていなかった……。
──To Be Continued──
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