1:Run fast in the Main Street.

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 やや素っ気なくも感じられる口調で言われ、ミウは猫の喉元をアイルに見せた。  彼女は、自分のバッグから何かを取り出している。薄く小さい物、一枚の写真だった。次いで、瞳をそれと、目の前の猫の間で交互に向け合っている。幾度か視線を往復させた後、一瞬間が空いた。 「……よし、間違いない」  唐突にそう言って、今度はバッグから携帯電話を取り出した。そして視線は猫に合わせたまま、どこかへ電話をかけた。 「もしもし……はい、自分です。無事見つかりました。今から来れるでしょうか?……いえいえ、では後ほど」  簡潔に切り上げ、アイルは電話を切る。そして写真も携帯もバッグにしまい、猫へと手を伸ばす。  しかしながら、猫はミウの腕の中から動こうとしない。居心地が良いのか何か知らないが、やたらと幸せそうな顔をしている。 「……なついた?」 「……みたい。あはは……」  ミウは苦笑しつつも、つられてか穏やかな表情になっていた。対してアイルは真顔のまま、頭をかいていた。そうして、彼女へ向け、ゆっくりと口を開ける。 「……ちょっと、自分の所に付いてきてもらっていいかな?その子、動こうとしないし」  アイルが告げたのは、ミウへの依頼だった。というか、イントネーション的には命令に近い。 「え?えーと……」  突然に言われたミウは、無論動揺した。冷静に考えれば、誘拐の文句と受け取ってもおかしくはない。自分が単に興味を抱いているというだけで、実は悪い人なのかも知れない。 「ここから、歩いて二十分ちょいだけど……いいかな?」  その時アイルは既に、足を進ませていた。色々考えるミウだったが、ついその後を追ってしまう。ひとまず猫を自転車の前かごに乗せ、自分もサドルに跨がっていた。 「(まあ……いざって時はこれで逃げればいいし……)」  不用心極まりない案を浮かべながら、ミウは足で地面を蹴る。そのまま、アイルの隣に並んだ。 「悪いね急に。何か用があったんでしょ?」 「はい、まあ……」 「朝から急いでたからね……何か無くした?」 「え」  ミウは、心臓を矢で貫かれたような感じがした。ズバリ、その通りの事を言われたのだ。 「よ、よく分かりますね……」 「まあ何となくね。ところで話は変わるけどさ……」  ミウの驚きをよそに、アイルはそう切り出す。またしても、少女の緊張が一瞬にして高まる。
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