1:Run fast in the Main Street.

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「ん……あれ?」  時間も辺りも気にせず、アイルに追従していたミウだが、急に両目を丸くした。はたと、気付かされる事があったのだ。 「このあたりなんですか?アイルさんの家て」 「あい?そうだけども」 「あたしも近くですよ……この辺、毎朝の通学路ですし」 「ああ。そう言えば、あっこで衝撃の対面を果たしたんだっけ」  アイルの右手が伸ばされ、人差し指が、件の交差点を差す。ここはもう、ミウのよく知る場所であったのだ。  お昼を少し回って、二人は道路を渡り、例によって長い塀の横を歩く。まあ、一人は自転車に跨がって歩いているのだが。  猫は相変わらず大人しく、前かごに前足をかけ、首もとを垂らすように乗っかっている。途中、ミウの体に遊びに行ったりもしたが、すぐに元の場所へ戻されていた。そんな猫は、口を開け、暢気に欠伸のような表情を見せていた。和む。 「そう言えば、アイルさんて何のお仕事されてるんですか?」  その暢気さが移ったように、ミウは気軽に尋ねた。同時に、顔を横に向けアイルを見る。最早、その左目にも慣れてしまっていた。 「言ってなかった?自分は、三年ぐらい前から……あ!?」  答えようとするアイルだったが、その時、非常事態は発生してしまった。健やかにもたれかかっていた筈の、猫ちゃんが、不意討ちに素早くもかごから降りてしまったのだ。  そしてこの時、ミウはちょっと驚いたぐらいだったが、アイルは異様なまでの焦りを見せていた。猫が降り立つ直前から、その足は既に地面を蹴る準備をしており、間髪入れず彼女の体は飛んだ。 「え!?」  続けざまに起こった事は、一瞬だった。何を思ったか、猫は四つ足で疾駆を始めようとし、アイルはそれを必死にとどめる。  そうして、彼女が横っ飛びのように舞って猫の体を抱き抱えた瞬間、塀の影から自転車が突っ込んできた。倒れ込むアイル、ブレーキの遅れた自転車。結果として、自転車の前輪が彼女の背中を直撃し、少し乗り越えたところで止まった。一瞬の静寂が、場に流れる。 「え……ちょ……えー!?」  朝と似た、しかし明らかに痛々しい出来事に、ミウも自転車に乗っていた青年も、パニックに陥る。慌てつつも、青年はひとまず下がり、どうにか事態を飲み込もうと努めた。ミウも当然慌ててサドルから降り、自転車を倒しながらも、アイルのそばに屈み込んだ。
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