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そうして、再び二人は横並びになって歩き出す。
ミウは自転車を起こし、猫を元通りに乗せていた。だが、アイルの目に関しては何も言わなかった。黙って、見知った道を進んでゆく。
「……あ、向こう、あたしの家です」
「ホント?すっごい近くよ」
少し歩いたところで、自宅を見つけたミウは指を差していた。見知ったどころではない、毎日通る道に差し掛かっていたのだ。そして、アイルの家もその近くだと言う。
二人は通りを抜け、交差点で折れる。結構歩いてきた気がしたが、まだお昼過ぎぐらいだ。そして遂に、目指すアイルの家に到着した。
「……って、真裏じゃん!」
ミウは思わず、大声でそう言ってしまった。その通り、二人の家はお隣ではないが接していた。ある意味盲点だ。
「ああ、そうだったのか。ホントに物凄い奇遇だね」
なぜ今まで知らなかったのか、という意見は完全にすっ飛ばし、アイルは淡々と言う。ミウはあしらわれたような気持ちになり、表情を少し歪める。
が、アイルの目はミウに構わず、その前に立っていた婦人の方に向けられていた。その人もアイルの帰宅に気付き、走り寄って来る。しかしその焦点は、別の方向にあった。
「まあミミーちゃん!心配したのよ!」
婦人が飛び付いて抱き上げたのは、猫だった。いかにもお高級そうな服を揺らし、小太り気味の彼女は大袈裟に喜びを表現する。呆気に取られるミウだったが、アイルの方はどことなく笑みを浮かべていた。
やがて、婦人は猫の頭を優しく丁寧に撫でながら、二人の方に顔を向けた。一瞬、ミウの顔が緊張で強張る。
「どうもありがとうございました。貴女って本当にお仕事がお早いのですねぇ」
「いえいえ。こちらの子のお陰でもあります。では中でもう少しお話を」
そう冷静に受け答えするアイルだが、ミウはまさしく展開について行けなかった。そんな彼女をほっとき、アイルはドアを開けて婦人を招き入れ、自分も中に入ろうとする。
「……えーと……」
「どうもありがとね。近いうちにお礼はするから」
それを別れの挨拶にして、アイルはドアを閉めた。
存外にも、あっさりとした別れであった。ミウはしばし、ポツンと家の前に立つ。
ふと、彼女は目を上げた。あまり、民家らしくは無い家の、扉の上に目を向けた。
「……M&Z……探偵局……?」
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