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ぼんやりと作戦会議を見ていたら、競技を開始するホイッスルが鳴り響いた。
ギャラリーたちの歓声がフィールドに響く。
試合を見ようとフィールドに視線を戻すと、さらに人が増え、いくら背伸びをしてもフィールド内を見ることができなくなってしまっていた。
わたしは恨めしい気持ちで巡を見た。
「どうした?」
わたしより二十センチも背の高い巡は後ろからでもフィールド内が見えるらしい。
わたしの表情にすぐになにを言いたいのか察した巡は苦笑する。
「奏乃は見えないのか」
「うー」
思わず、見上げるような状態で巡をにらみつけてしまう。
見えないのは巡のせいではないのは分かっている。
だけど悠々と見ることが出来ている巡がうらやましくて、にらんでしまった。
「ったく、分かったよ。見えるところを探そう」
「……ありがと」
しかし、どう見てもギャラリーだらけでゆっくりと見られるように見えない。
「オレの教室に行くか?」
「……へっ?」
思いがけない言葉に、ぽかんと口を開けた間抜けな表情で巡を見る。
「奏乃……しまりのない顔だな」
巡はくくっと喉を鳴らし、さらにはおかしそうに目を細めてわたしを見下ろしている。
いつものことだけど、どうしてわたしのことをこんなにからかうわけ?
むすっとにらみつけてやったけど、童顔なわたしがそんな表情をしたってまったく迫力がない。
その証拠に、巡の表情がさらに緩んだ。
「奏乃はほんと、かわいーなっ」
なんて言って、くすくすと笑い出してしまった。
ほんとにもうっ、失礼なヤツ!
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