一*爽やかな季節の中、想いは募る

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「もうっ! いい。わたし、帰るっ」  土井先輩の勇姿を見たかったけど、ここに突っ立っていても見えない。  だったら、素直に家に帰った方が良さそうだ。  いつもより早いから少し寄り道をして土手を通って、ちょっとデッサンをして帰ってもいいかもしれない。 「悪い、悪い。だって、奏乃があんまりにも面白い顔をするから、つい」 「むー」  巡はわたしの頭に軽く触れ、ぐっと顔を近づけてきた。 「それでは、お姫さまのために、わが教室をご案内いたしましょうか」  巡はそう言うと地面に置いていたわたしのかばんも持ち、歩き始めた。 「巡! わたし、帰るって!」 「いいから、ついてこいよ」  足も長い巡は歩くのも速くて、わたしを残して校舎へと戻っている。  わたしは慌ててその後ろを走って追いかけた。  わたしが追いつくと巡は少し歩調をゆっくりにして、こちらに顔を向けてきた。 「この様子だと教室にも相当な人がいると思うけど、あそこで見るよりはゆっくり見られるよ」  試合が開始して五分以上経過していると思うけど、歓声はどんどんと大きくなっているし、後から人がやってきているのが分かるほどだ。  中には先ほどのわたしのように諦めて帰って行く生徒もいるけど、見に来る人の方が圧倒的に多い。  教室の位置によってはフィールドがよく見えるから、この様子で外に出るのを諦めてそこに集まっている人がたくさんいるのは予想がつく。  それでも、ここよりはマシだろう。
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