一*爽やかな季節の中、想いは募る

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 靴箱に戻って上履きになり、巡の教室へと向かう。  ドアは全開になっていて、ここでも歓声が聞こえる。 「メグ。お、彼女連れ? おまえ、彼女作らないのがポリシーって言ってなかったか?」 「そうだよ。こいつは下瀬(しもせ)奏乃、美術部の後輩で中学からの腐れ縁。彼女じゃない」  教室に入るなり、巡は声を掛けられていた。 「一年二組の下瀬です、よろしくお願いします」  わたしは巡に声を掛けてきた人に小さく頭を下げた。 「へー、メグの後輩にこんなかわいい子がいたんだ」  そういって、巡のクラスメイトは腰を折り曲げてわたしの顔をのぞき込んできた。  わたしは驚いて後ずさり、思わず巡の後ろに隠れてしまう。 「野口、初対面でそんなことしたら、驚くだろ」  巡の苦笑したような声に顔をのぞき込んできた巡のクラスメイト──野口さんと言うらしい──は、今度は巡に顔を近づけた。  巡は背を逸らし、野口さんにデコピンを食らわせた。 「ってー」 「暑っ苦しい顔を近づけるなっ」  そのやりとりに、思わずくすりと笑ってしまう。 「あ、奏乃! 笑ったなっ」  巡は振り返り、わたしの頬をつかんで引っ張る。 「うわっ、思ったよりほっぺ、柔らかいな」  ぷにぷにと巡はわたしの頬を楽しそうに引っ張る。 「ひょっと! ひゃめにゃしゃいよっ」  頬を引っ張られているから、上手くしゃべれない。 「ぶぶっ、おもしれー」  巡はわたしの頬から手を離し、お腹を抱えて笑い出した。  巡はいつもこうだ。  わたしをすぐにこうやってからかう。
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