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「下瀬さん!」
放課後。
わたしはいつものように美術室に向かおうとしたところ、声を掛けられた。
「呼んだ?」
振り返ると、秋崎真希(あきさき まき)が立っていた。
特に仲がいいわけでもなく、悪いわけでもない。
クラスメイト、という言葉が表している関係でしかない相手だ。
秋崎さんは焦げ茶色のふわふわの髪の毛を揺らしながらわたしを追いかけてきた。
教室の入口で立ち止まり、思わず首をかしげて秋崎さんを見る。
「ねえ、下瀬さんって二年の皆本先輩と仲がいいって聞いたんだけど、ほんと?」
皆本先輩、と言われてしばらくの間、それがだれか分からなかった。
だれだっけと悩み、それが巡の苗字だと至ったのは、たっぷりと十秒はかかっていたと思う。
「ああ、巡のことか!」
「めぐ……。名前を呼び捨てにしてるってことは、相当仲がいいんだっ。もしかして、下瀬さんの彼氏って皆本先輩?」
彼氏? だれが?? 巡がわたしの彼氏?
「……へ? わたし、彼氏はいないよっ」
たまーにこうやって勘違いされるんだけど、巡とわたしは先輩後輩というだけの間柄だ。
巡が高校に入学して学校が別々になっていた去年一年間、まったく連絡を取り合わなかったのだ。
もしも彼氏・彼女という仲でそれだったらおかしすぎるだろう。
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