二*ラブレターとアントニオ

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『おまえらさ、オレを追いかけて入部とか、どんだけ金魚の糞なんだよ。少しはこいつらの迷惑ってのを考えろよ』  巡の傲慢としか聞こえない言葉に美術室は静かになる。 『なんでよ! なんでよりによって、美術部なのよ』  その声に美術部の扱いはそんなものなんだ、とがっかりする。 『オレはゲージツってヤツに目覚めたんだ。……そうだ、いいことを思いついた!』  巡は大げさに手を叩き、入部希望者たちに笑みを向ける。 『毎日、殺到してきておまえたちの相手にクラブ活動に支障を来しているんだ。だから、本当に美術部に入りたいヤツだけ来い』 『えー! あたしだって、本当に入りたくてぇ』  見え透いた嘘に巡はため息を吐く。 『おまえたちが本当に入りたいという気持ちがあるのはよーっく分かった。だったら、だ』  こちらも見え透いた嘘に対して、嘘の答え。  茶番だななんて醒めた目で見ていた。 『入部試験をする』 『入部試験?』  巡の突然の提案に全員が声を上げる。 『本当に美術部に入りたいかどうか、オレがテストをしてやる。なんでもいいから百枚、デッサンして持ってこい』 『は? なにそれ?』 『絵が好きなら、それくらいなんてこたないだろ?』  巡のむちゃくちゃな試験内容に希望者たちはブーイング。 『うっさい。いいか、デッサン百枚。持ってきたヤツだけ、入部を許可する』  巡の言葉に文句を言いながらも、希望者たちは全員、去って行った。  どうやら全員、入部を諦めたらしい。
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