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「ということは、皆本先輩、やっぱりフリーなんだ!」
秋崎さんの声にわたしは現実に戻ってきた。
「彼女がいるって話を聞かないから、いないんじゃないかなぁ」
「じゃあ、お願いがあるの」
秋崎さんはそう言うと、少し照れくさそうにしながらピンク色の封筒を懐から取り出した。
「あのね、皆本先輩と仲がいいみたいだから、そのぉ」
中学の時から繰り返された、お願い事。
「巡に渡せばいいのね?」
「そう! 話が早くて、助かる!」
これで何度目だろう。
「渡すけど、期待しないでね」
「うん、渡してくれるだけでもうれしいの!」
積極的な言葉に胸が痛む。
巡がこの手紙をどう扱うのか知っている身としては、申し訳なさ過ぎて苦しい。
せめて中身を読んで、本人にきちんとお断りをすればいいのにといつも思う。
「それでは、お預かりします」
わたしはこぼれそうになるため息を飲み込み、受け取った手紙をポケットにしまう。
「ありがとう!」
すがすがしい笑顔が何日か後に曇ることを知っているから、秋崎さんのその表情はまぶしすぎる。
重たい足取りで美術部に向かう。
「お、奏乃。今日は遅かったな」
珍しく巡の方が早かった。
だれのせいでこんなに気持ちが重いと思ってるんだっ! という言葉を飲み込み、無言で秋崎さんから預かった手紙を渡す。
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