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「なに? 奏乃からのラブレター?」
にやけた笑顔にどうしてこんな人がもてるのだろう、なんて思ってしまう。
意地悪でオレさまのどこがいいんだろう。
わたしにはさっぱり分からない。
「違うわよ。巡に渡して欲しいって頼まれたの」
巡は明らかにがっかりとした表情をわたしに向けた。
「おまえさ、オレがこれをどうするのか知っていて、馬鹿正直に受け取って持ってくるんだ」
「だって。渡してほしいってお願いされたし……渡してくれるだけでうれしいなんて言われたら、断れないじゃん」
巡はクロッキー帳を机に置くと立ち上がり、後ろへと向かう。
「ちょっと! 読みもしないわけ?」
「読んだって仕方がないだろ。オレはこの手紙を書いたヤツのことは知らないし、それに、自分の手で渡しにこないようなヤツの書いたものを読む義務はない」
巡はごみ箱の前に立ち、躊躇することなく破いていく。
丸っこい文字で書かれた『皆本先輩へ』の文字がちりぢりになるのが胸に痛い。
「自分の気持ちを人に託すなんて、オレはそれだけでお断りだね」
「どうしてよ! 一生懸命手紙を書いたんだろうし、わたしを信頼して手紙を託してくれたのに」
「じゃあ、どうすればいい? 人に手紙を託すような女を呼び出して『オレには好きな人がいるんだ』って伝えればいいのか?」
巡ははっとした表情をして、次にはバツの悪い顔をしてわたしから視線を逸らす。
「……今のは、聞かなかったこ──」
「え? 巡って好きな人がいるのっ」
「おまっ。声、大きいって!」
巡は慌ててわたしの側に来ると、大きな手でわたしの口をふさぐ。
そして周りを見回す。
美術室内はわたしと巡しかいなかった。
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