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「ちょっと、見ないでよ」
わたしの抗議の声を無視して、巡は何度か最初から今日のデッサンを行ったり来たりして見比べている。
「うーん……。上達はしてるなあ」
そうやって自分のデッサンを振り返ってみたことがないので、クロッキー帳の上を引っ張って逆さから見る。
最初のページの日付は四月九日。
入学式の次の日で、美術部に入部した日だ。
初日は購買にクロッキー帳を買いに行って、美術室の片隅に置かれた石膏のデッサンをさせられたのを思い出した。
部長の『イケメンに描いてやってね』という言葉を思い出し、笑ってしまう。
「思い出し笑いをするヤツってエロいっていうよな」
「なっ!」
巡の意地悪な言葉に対して、わたしはにらみつけてやった。
しかし、巡は口の端を軽く上げ、さらに言葉を続けた。
「独り言は多いのは相変わらずだし、この一年で全然変わってなくて、安心したよ」
巡はクロッキー帳をもう一度見て、わたしに返してきた。
慌てて受け取る。
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