二*ラブレターとアントニオ

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「ねっ、巡っ」  口をふさがれたまま、巡を見上げて口を開く。 「彼女がいないのって、もしかしてっ」  不思議に思っていたのだ。  巡はとにかく、もてる。  茶色かかった柔らかそうな少し長めの髪、焦げ茶色の瞳。  クールな見た目を際立てる黒の細めのフレーム。  まあね、ひいき目に見ていい男、ではある。  頭もいいし、どうやら運動神経もいいらしい。  だけど……意地は悪いし、オレさまだしっ。  告白してくる子に対していっつも無理難題をふっかけて……。  あれ? これってなにかに似てるんだよね。 「かーのっ。またトリップしない!」  巡の一言に、そうだと思い出す。 「そそそそ、そーだ! 巡、なになにっ。今まで、だれとも付き合ってないのって、好きな人がいるから、なのっ?」  わたしの質問に、巡は渋い表情になる。 「オレはおまえと違ってデリケートなの。『土井先輩、かっこいー!』『ステキーっ!』なんてミーハーなこと、出来ないんだよ」  なんだかはぐらかされたような気がするけど、要するに。 「うわぁ、こんなに傲岸不遜な巡が片想いぃ?」  あり得ない! このオレさまな男が乙女チックに片想いだなんて!
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