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「別にここにこもってデッサンしないといけないってことはないから、外でしてくれば?」
とはいうけど、外でデッサンなんて恥ずかしくて出来ない。
「近くでしっかり見た方が上達は早いと思うし」
巡はそういうと、真新しいページを開いて石膏のデッサンを始めた。
わたしはぼんやりと巡の鉛筆の先を眺めていた。
言われなくても分かっているけど、外に出てなんて積極的に行動ができないわたしには、ハードルの高い言葉だ。
巡は迷うことなく、鉛筆を走らせている。
真っ白だった紙に石膏が浮かび上がってくる。
さっと鉛筆の先が紙の上に走ると、そこに息吹が宿る。
無機質なはずの石膏なのに、巡の手にかかるとなぜかそれには命が吹き込まれる。
「今日はこんなところかなぁ」
瞬く間に描き上がったデッサンを両腕を伸ばして確認して、日付を入れると閉じた。
「さて、今日の活動はおしまい!」
「はやっ!」
来たばかりだというのに、巡はクロッキー帳と鉛筆を片付け始めた。
「奏乃も片付けろよ」
「え? なんでわたしも?」
もう一枚くらい描こうと思っていたところなのに、その気持ちを折るような言葉を巡は口にする。
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