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巡のよく分からない挑戦に巻き込まれてしまったわたしは、夏休み明けが締め切りの高校生絵画コンクールと文化祭用の絵の二枚を描くことになってしまった。
文化祭用の絵さえも決まってないのに、絵画コンクールなんてそれは無理な相談だろう。
「文化祭は最終手段として、今までのデッサンを出せばいいだろう」
正気だとは思えない言葉に、巡の顔をじっと見つめてしまう。
「ん? なんだ? 頭が良すぎるオレに惚れた?」
「んなわけないでしょ! なにを考えてるのよ。あのデッサン、出せるわけがないじゃない!」
巡はわたしに人差し指を向け、ノンノンと言いながら左右に振る。
「分かってないのはおまえだ。あのデッサン、一枚だけなら意味がない。だけど、土井先輩が引退するまでほぼ毎日、書き続けてきただろう? クロッキー帳まるまる一冊が作品になる!」
とは言うけれど、他の人たちはみんな、水彩画だったり油絵だったりを文化祭に向けて、描いている。
わたしだけそれでいいのだろうか。
「とにかくおまえは絵画コンクールだけを考えろ。それが出来たら、文化祭に取りかかればいい」
なんだか本末転倒なような気もするし巡に乗せられているなあと思うけど、楽しいと感じているのは事実だ。
だから、今はそれでいいような気がしてきた。
問題は、なにを描くか、だ。
わたしは何冊にも渡っているクロッキー帳を最初から見ていた。
一枚目はアントニオ。
その後ろもしばらく、アントニオが描かれている。
ある日を境に、土井先輩だけになってくる。
その日から夏休み前までずっと、土井先輩だけを描いてきた。
そう考えると、わたしがコンクール用に描く題材は自ずと決まってくるような気がしてきた。
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