三*思いもよらない挑戦

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「どうした、奏乃?」  購買の端に寄って暗い表情でお財布をじっと見ているわたしに対して、巡は声を掛けてきてくれた。 「これを買うのに、お金が足りるかなって確認してたの」 「クロッキー帳、そこそこの値段、するもんなぁ」  すっかり淋しくなったお財布からなけなしのお金を取り出し、クロッキー帳を買った。  新しいクロッキー帳を大切に抱きかかえ、美術室へと戻る。  買ったばかりのクロッキー帳の表紙に名前を書き、開いて一枚目に脳内で考えている構図を落とし込んでみる。  やっぱり、考えているものと実際に描いてみたものではなんだかイメージが違う。  わたしは立ち上がり、窓辺に寄る。  フィールドではサッカー部の人たちが炎天下の中、シュート練習をしている。  イメージを湧かせるために、シュート練習をしている人たちを丸と線を使って、動きを拾っていく。  こうやって土井先輩以外の人を描いてみると、土井先輩のフォームがどれだけ美しかったのかを改めて知ることができた。  夢中になって動きを追っていると、時間を忘れてしまう。  サッカー部の人たちは休憩に入ったのか、フィールドからだれもいなくなってしまった。  そこでわたしはようやく、息を吐いた。  それまで、呼吸をすることを忘れたかのように動きを追うことに集中していたような気がする。 「お疲れ」  声とともに、わたしの頭に手が降ってきた。  手のひらでわたしの髪をぐちゃぐちゃに翻弄していくのは、巡だ。  前髪が落ちてくるのを止めていた木で出来たクリップが落ちて、顔に前髪が降り注いでくる。 「もうっ、やめてよ」  わたしはその手を振り払い、落ちたクリップを拾って前髪を耳にかける。
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