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「髪、伸びてきたな」
「え……、あ、うん」
少し前から髪の毛を伸ばそうと思ってあまり切っていないことに巡は気がついてくれたのだろうか。
「知り合ってからずっとおかっぱ頭だけどさ」
「おかっぱじゃないよ、ボブカットって言うんだよ!」
「分かった、おかっぱね」
「おかっぱじゃないって!」
何度訂正してもおかっぱ頭と繰り返すから、反論を諦めた。
「伸ばさないの?」
伸ばしてるところなんだけどと言おうとしたら、巡にだれかが話しかけてきた。
だからわたしは口を閉じ、クロッキー帳に視線を落とす。
巡は少し難しそうな表情をして、わたしの側から離れていく。
ふと時計を見るともう少しでお昼になる。
いいタイミングだと思い、椅子から立ち上がって伸びをした。
かなり長い間、脇目もふらずに描き続けていたらしい。身体が固まっていた。
夏休みにもかかわらず、毎日、お母さんはお弁当を作ってくれる。
それがありがたくもあるけど、心苦しく思うこともある。
だけど、家にいてもいなくても結局はお昼ご飯は必要なわけで。
そういうことを含めて、お父さんは朝、あんなことを言ったのだろうか。
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