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教室の隅っこで食べていると、巡が戻ってきた。
浮かない表情をしているところを見ると、なにか良くないことでも言われたのだろう。
「抜け駆けかよ!」
わたしがお弁当をほおばっているのを見て、巡は抗議の声を上げてきた。
「だって、いつ帰ってくるのか分からなかったから」
「すぐに戻るって言ったの、聞いてなかったのか?」
「そんなこと、言ったの? 聞こえなかったよ」
巡はなにも答えず、わたしの横に座ってお弁当を広げている。
わたしのお弁当箱の倍はあるほどの大きさだ。
がつがつという音が聞こえそうなほどの勢いで食べ始めた。
「うわっ、かーさん、かまぼこ入れないでってお願いしていたのに、入れてあるとは嫌がらせかよ!」
ふと巡のお弁当箱を見ると、妙にかわいらしい花形のかまぼこが入っている。
「交換、してあげよっか?」
「や、いいよ。食べられないわけではないし」
「そのかまぼこ、食べたい。卵焼きと交換、してあげるっ」
「……いいのか?」
「うん、いいよ」
わたしはお弁当箱を巡に差し出し、わたしは巡のお弁当箱からかわいらしい花形のかまぼこを抜き出した。
「へー、こんなかわいいかまぼこがあるんだ」
「ねーさんのお弁当用だろ。余ったからオレのにも入れるとは、ほんと」
巡はため息をつきつつ、わたしのお弁当から卵焼きを一つつまんで、口に放り込んだ。
「お、うまっ!」
「でしょ? お母さん、料理が上手なんだよぉ」
「料理が上手でいいな。うちなんて、人数が多いから作るのが大変とか言って、半分くらいは冷凍食品だしさ」
とはいうけれど、巡のお弁当はいつ見ても色鮮やかで美味しそうだ。
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