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「たまには早く帰ってもいいだろ」
「まー、そうなんだけど」
巡は長めの前髪をかき上げ、わたしを見る。
「土井先輩の勇姿が見られるぞ」
巡の視線はわたしが開けたままにしておいた窓の外に向いていた。
それに釣られ、わたしも視線を向けた。
校庭の一角に準備されたサッカーゴールに挟まれた中に、練習用のゼッケンをつけた人たちがいる。
「練習試合をするみたいだぞ」
わたしは慌ててクロッキー帳と鉛筆を片付けた。
窓を閉めようとしたら、巡が代わりにやってくれたようだ。
窓辺に置いていたかばんを手に取る。
「窓、ありがと」
「気にするな。オレは花粉症だ」
「え、巡、いつから花粉症になったの?」
「ついさっき」
しれっとつかれた嘘に、わたしは思わず吹き出してしまう。
「オレが花粉症ってのは冗談として。先輩の中には花粉症の人がいるから、明日からは外でデッサンすることをすすめるよ」
「……うん」
いつも巡はさりげなくそうやってアドバイスをしてくれる。
「じゃ、土井先輩の勇姿を見るついでにデッサン場所の下見もしてこようぜ」
巡はそうして、からかうような笑みを浮かべ、わたしを見た。
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