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「あっ、あのっ。来るのが遅くなって……ごめんね」
昨日、いつもより早く来ると言っていたのに遅れて来たから怒っているのかもしれないと思い、謝罪の言葉を口にする。
しかし、巡は険しい表情のまま、首を振った。
「なかなか来ないから、心配してたけど……奏乃が無事なら、良かった」
そういうと、巡はわたしをぎゅっと抱きしめた。
なにがなんだか分からなくて、わたしはどう反応すればいいのか分からない。
「巡? どうしたの?」
「奏乃、落ち着いて聞いてほしい」
落ち着かなくてはならないのは、わたしではなくて巡なのではないだろうか。
巡の声は震えていた。
「わたしは落ち着いてるけど……なに、どうしたの?」
巡はゆっくりとわたしから離れ、今にも泣き出しそうな表情を向けてきた。
そんな表情を見たことがなくて、戸惑うばかりだ。
「ねえ、どうしたの? なにが、あったの?」
巡は辛そうな表情をして、首を振る。
「もうっ、変な巡」
巡にいつものように笑ってほしくて笑いかけてみたけど、表情は変わらなかった。
いぶかしく思いながらもわたしは仕上げに取りかかるため、美術室へと向かった。
戸を開けようとしたら、後ろから巡に止められた。
「……巡?」
巡のこの表情の原因は、この中にあるということだろう。
さっきより表情がさらに険しくなっている。
整った顔をした巡がそんな表情をしていたら、怖くなってくる。
「奏乃、今日は帰れ」
思わぬ言葉に、わたしは反論する。
「帰れって! だって、今日で仕上がるのに!」
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