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わたしと巡が美術室の後ろのドアの前でもめていると、前のドアが開いて篠原先生が出てきた。
「下瀬さん……」
こちらも今にも泣き出してしまいそうな表情をしていた。
原因はこの中にあるのだろう。
なにかよからぬことが起こったということは痛いほど分かった。
それも、わたしにとって痛手になる出来事が。
「先生、奏乃にはオレから……」
「いいえ。辛いかもしれないけれど、きちんと本人が見るべきだと思うの」
──やっぱり。
篠原先生はわたしを手招きする。
「皆本くんからは?」
「いいえ。なにも……聞いてません」
わたしの答えに篠原先生は小さくため息を吐き、わたしの顔をまっすぐと見た。
「昨日、あなたと皆本くんの二人で美術室の戸締まりをしてくれたのよね?」
「はい。二人で鍵を掛けて、閉まっていることを確認しました」
「それで、鍵を職員室に返しに来てくれたのは岡村先生が見ていて、気をつけて帰るようにと声を掛けたとさっき聞いたわ」
昨日の職員室でのことを思い出す。
そうだ。
あの先生の名前が岡村というのを今、思い出した。
三年生のどこのクラスか分からないけど、担任だ。
「岡村先生は昨日、最後まで残っていたみたいなの。その後にだれかが美術室の鍵を借りに来た人はいない」
だけど、と篠原先生は続ける。
「今日、皆本くんが一番に来て、職員室に鍵を取りに行った。昨日、返したままそこには鍵があって、いつもと同じように鍵を開けて、中に入ったら……」
わたしは巡に視線を向ける。
うなだれているため、どんな表情をしているのか分からない。
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