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「──美術室の中が、荒らされていたの」
「荒らされて……いた?」
「そう。もっと詳しく言えば、荒らされていたのは一部だけだったの」
わたしが昨日、美術室を出るとき、机はいつものように並んでいたし、わたしたちの描いた作品は部屋の端を机を囲うように置かれていた。
「下瀬さん、覚悟して聞いてね」
気がついたら、後ろに巡が立っていた。
わたしを支えるようにそっと肩に手が掛けられる。
「下瀬さん、あなたの作品だけが……切り裂かれていたの」
言われた言葉の意味が分からなくて、篠原先生の顔をじっと見つめてしまう。
「絵画コンクールに出すって言っていた絵が……修復不可能なほど、ずたずたに、切られてしまったの」
ようやく、言われた言葉の意味を理解した。
音が、遠くなる。
目の前が、よく見えない。
「……奏乃っ!」
背中にぬくもりを感じる。
わたしの身体から力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。
「絵画コンクールまでの締め切り……一週間もないから……」
篠原先生の声が遠くに聞こえる。
思っていたよりスムースに進んで、早めに上がるなと喜んでいたところだった。
それがまさか……。
どうすればいいのか分からない。
わたしの思考はそこで止まった。
「奏乃、今日は帰ろうか」
そう言われて、わたしは首を振る。
「自分の目で見ないと、信じられない」
わたしはどうにか立ち上がろうとしたけど、上手く身体が動かない。
巡が手助けをしてくれて、支えられるようにしてくれたのでかろうじて立ち上がれた。
ふらつく身体のまま、前から美術室に入る。
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