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室内は静まりかえっている。
昨日、絵を置いた場所に足を運ぶ。
掛けていた布は遠くに飛ばされていて、イーゼルには無残にも枠だけが残っていた。
中の画布は切り裂かれ、床の上に散乱していた。
だれがどうしてこんなことをしたのか。
わたしはしゃがみ込み、落ちた布片を拾い上げる。
拾った布をスカートの中に詰め込んでいく。
すべてを拾い終わり、わたしは無言で美術室を出た。
心配したように巡が後ろをついてきてくれている。
「……わたし、帰るね」
ショックでどうすればいいのか分からない。
「家まで送っていくよ」
「……いいよ、大丈夫」
肩を落とし、うつむいたまま、昇降口に戻って靴に履き替える。
来た道を戻り、校門を抜ける。
来るときはあんなに暑かったのに、今はもう、暑ささえ感じない。
マンションの入口にどうにかたどり着いて中に入るとき、視界の端に巡が見えたような気がした。
「……ただいま」
出かけたばかりなのにもう帰ってきたわたしを見て、お母さんは苦笑している。
「ずいぶんと早かったわね。絵は完成したの?」
「……ううん」
それだけしか言えなくて、お母さんの作ってくれたお弁当をテーブルの上に置くと、部屋に駆け込んだ。
部屋の中はわたしが出て行った時のままで、ベッドの上の掛け布団はぐちゃぐちゃになっていた。
そこに身体を投げ出し、うつぶせになる。
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