一*爽やかな季節の中、想いは募る

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     **:**:**:  わたしたちがグラウンドに出た時にはまだ試合は始まっていないにもかかわらず、すでにギャラリーで一杯になっていた。  試合が見たくてフィールドが見えるところを探すのだが、みっしりと人が埋まっていて、どこにも隙間がない。  それでも人が少ないところを見つけ、背伸びをして人と人の間から試合を見ることにした。  これだと屋上から見た方がよく見えるなあと思っていたら、巡が腕を引っ張ってきた。 「いきなり引っ張らないでよ」  文句を言ったのに巡は聞こえなかったのか、さらに強く引っ張る。  わたしの視線はフィールドに向いていたが、あまりにも遠慮のない引っ張り方だったので巡に視線を移した。  巡はこちらを見ているのかと思ったら違って、どこか遠くを見ている。わたしは引っ張られるままに巡の横に立った。 「あ……」  赤いゼッケンをつけた土井先輩の背中が少し先にあった。  周りに同じゼッケンをつけた人たちがいるところを見ると、試合前の作戦会議中といったところだろうか。
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