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「うっ……くっ」
どうすればいいのか分からない。なんであんなことになってしまったのだろう。
昨日までの努力がすべてダメになってしまった。
わたしの夏休みはなんだったのだろうか。
お父さんが言うように、無駄なことだったのか……。
目が溶けてしまうのではないかというほど、わたしの目からは涙が次から次へとあふれてくる。
どうすればこの涙は止まるのだろう。
泣いて泣いて……気がついたら、朝になっていた。
腫れぼったい目のまま、わたしはキッチンへと向かった。
服は昨日のままだ。
「おはよ。巡くんが心配して、夕方に来てくれたのよ」
面倒見のいい巡になんだか腹が立ってくる。
「……ほっといてくれればいいのに」
八つ当たりだって分かっている。
だけどもう、悔しくて仕方がなかった。
スカートのポケットにしまった切り裂かれた絵をテーブルの上にばらまいた。
「もう、絵を描かない!」
わたしの投げ出した切り裂かれた絵をお母さんは大切そうに広げ、元に戻そうとしてくれている。
「まあ……ひどいことをする人がいるものねぇ」
のんびりとした声にわたしは苛立つ。
「お母さんになにが分かるって言うのよっ」
荒げた声にそれでも、お母さんはのほほんと口を開く。
「そうねぇ。辛いんだろうなってことしか、分からないわ。でも、ここで奏乃が諦めるのは、こんな卑劣なことをやった人間を喜ばせるだけだと思うのよね」
お母さんはしわしわになった布を手で丁寧に伸ばしている。
「あら、ここの色なんか素敵じゃない。もう、絵を描かないの? もったいないと思うわ」
テーブルをにらみつけていたわたしは少しだけ、視線を上げる。
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