四*練習試合

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「ここで奏乃ががんばってこれよりもっといいものを描いちゃえば、こんな卑劣なことをやった人間の鼻を明かせると思わない? あーら、それってなんだかすっごく爽快!」  お母さんの楽しそうな声に、わたしは顔を上げる。  目の前には、にこやかな表情をしたお母さんがいた。 「いつまでも泣いていたって、仕方がないでしょ? このまま泣き寝入りしたいのなら別にいいのよ。だけど、せっかくここまで頑張ったのを無にされたの、悔しくない? ここで諦めたら、負けちゃうのよ」  お母さんはわたしの前に立ち、優しく頭をなでてくれた。 「軽くシャワーを浴びてきなさい。昨日はお昼からご飯を食べてないんだから、お腹が空いてるでしょ? 昨日の夕飯の残りを準備しておいてあげるから」  わたしはのろのろと浴室に向かい、お母さんに言われた通り、シャワーを浴びた。  それによって、だいぶスッキリとした。  ご飯も食べて栄養が巡り始めてようやく、このままにするのは悔しいと思えるようになった。  もう一度同じ物を描き上げるのは時間的に難しい。  だけどまだ、締め切りまで一週間あるのだ。  ぎりぎりまで粘ってみよう。  お母さんの言葉にようやく、そう思えるようになった。 「学校、行ってくる」 「そう? 気をつけてね」  お母さんはいつものようにお弁当を作ってくれて、わたしに持たせてくれた。  今日も変わらず、太陽が空に昇っている。  地上を照りつけるその光をにらみつけて、挑むように歩き始めた。  しばらくして、背後に気配を感じる。 「奏乃、おはよ」  いつものように巡が声を掛けてきた。 「おはよ」  はれぼったい顔を気にしながら、わたしは振り返る。  心配そうな表情をしている巡に対して、引きつる顔にどうにか笑みを乗せる。 「間に合うかどうか分からないけど、わたし、また描くよ」 「……そっか」  巡はそれだけ言うと、わたしの横に並んで頭をなでてくれた。  大きくて暖かい手にまた涙が出そうになったけど、ぐっと我慢した。
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