四*練習試合

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「油絵だったら乾かす時間がかかるから、水彩画にしたらどうだ?」  水彩画はどちらかというと苦手だ。  だから避けていたのだけど、そんなアドバイスをしてくる。  巡だってわたしが水彩画が苦手なのを知っているはずなのに。 「奏乃が苦手なのは知ってるけど、そこをあえて、チャレンジしてみるのがいいんじゃないかと思うんだ」  とは言うけど、水彩画の透明感が出せなくて、どうにも苦手としている。  時間がないのならなおさら、慣れている油絵にしたいと思ったけれど、確かに、乾かす時間を考えると間に合わない。 「……水彩画にチャレンジしてみる」 「お、その心意気!」  まだ完全に立ち直った訳ではないけど、これを機会に違うことに挑戦してみるのもいいかもしれない。  昨日はどん底だと思っていたけど、だからこそ、今、自分が上昇を始めているというのを実感できた。  たしひとりだと絶対にもっと長い間、落ち込んでいただろう。  周りの人に助けられていることを知った。  美術室に行くと、わたしたちが一番乗りだった。  切り裂かれてしまったわたしの絵が乗っていたイーゼルは片付けられていて、それ以外はなにも変わっていなかった。  なんだか胸がぎゅっと締め付けられる。  決意はしたものの、やっぱりこの空間にいると辛い。  今日はサッカー部の練習開始よりも早く来ていたので、外に目を向けてもまばらにしか人が見当たらない。
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