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「油絵だったら乾かす時間がかかるから、水彩画にしたらどうだ?」
水彩画はどちらかというと苦手だ。
だから避けていたのだけど、そんなアドバイスをしてくる。
巡だってわたしが水彩画が苦手なのを知っているはずなのに。
「奏乃が苦手なのは知ってるけど、そこをあえて、チャレンジしてみるのがいいんじゃないかと思うんだ」
とは言うけど、水彩画の透明感が出せなくて、どうにも苦手としている。
時間がないのならなおさら、慣れている油絵にしたいと思ったけれど、確かに、乾かす時間を考えると間に合わない。
「……水彩画にチャレンジしてみる」
「お、その心意気!」
まだ完全に立ち直った訳ではないけど、これを機会に違うことに挑戦してみるのもいいかもしれない。
昨日はどん底だと思っていたけど、だからこそ、今、自分が上昇を始めているというのを実感できた。
たしひとりだと絶対にもっと長い間、落ち込んでいただろう。
周りの人に助けられていることを知った。
美術室に行くと、わたしたちが一番乗りだった。
切り裂かれてしまったわたしの絵が乗っていたイーゼルは片付けられていて、それ以外はなにも変わっていなかった。
なんだか胸がぎゅっと締め付けられる。
決意はしたものの、やっぱりこの空間にいると辛い。
今日はサッカー部の練習開始よりも早く来ていたので、外に目を向けてもまばらにしか人が見当たらない。
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