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とそこへ、わたしたちの横の窓がこつこつと叩かれた。
顔を上げて外を見ると、そこにはなぜか土井先輩が立っていた。
突然の出来事に、頭に血が上る。
顔が真っ赤になって、今のわたしはゆでだこみたいになっているような気がする。
巡も顔を上げた。
土井先輩は窓を開けるように鍵を指さしている。
わたしは動揺していて、動くことができない。
巡が鍵を開けてくれた。
「皆本、来たぞ」
「おはようございます、土井先輩。忙しい中、すみません」
巡と土井先輩の会話に、いつの間にこの二人がこんなに親しい仲になっていたのかと驚く。
「今日は午前中はフリーなんだ。おい、皆本。おまえ、おれを呼んだ責任をとって、今からやる練習試合に出ろ」
「えっ。やっ、オレ、足手まといに」
「ほー、知らないとでも思っているのか? いいから出ろ!」
土井先輩の有無を言わせない言葉に巡はぶつぶつと文句を言いながら、クロッキー帳がおさめられている棚から一冊取り出し、わたしに手渡してきた。
「これ、オレの。とりあえず、間に合わせになるけど、今日はこれを使えばいい」
「え、でも」
「いいから、受け取っておけ。おまえ、これからの出来事で絶対にクロッキー帳がほしくなるから」
巡はいたずらっ子のような笑みをわたしに向ける。
「皆本、早くしろ!」
「はーい」
巡は気の抜けた返事をして、窓を閉めるとわたしに敬礼をして、美術室を出て行った。
一人残されてしまったわたしは、巡から渡されたクロッキー帳を呆然とみていた。
閉じた窓越しからでも聞こえる、ホイッスル。
すでに癖になってしまっているわたしは、定位置に椅子を持ってきて、ぼんやりと外を眺める。
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