四*練習試合

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 ──すごい。  わたしは今の光景を忘れないうちにとクロッキー帳に鉛筆を走らせる。  巡が土井先輩のドリブルを遮るためにスライディングした場面。  カットできなかった時の悔しそうな表情。  土井先輩を追いかける姿。  並んだ時の表情。  抜き去った時の二人の表情。  土井先輩がキックしたときの動き。  得意げな表情。  どれもこれも素晴らしくて、無我夢中で描き込んだ。  そして気がついたら──巡から借りているにもかかわらず、クロッキー帳全部を使い切ってしまった。  そこでようやく、冷静になった。 「あ……」  借りておきながら夢中になりすぎた。 「奏乃、いい絵が描けたか?」  首からタオルをさげた巡が声を掛けてきた。 「巡……そのっ」  わたしの手の下にあるクロッキー帳を素早く抜き取り、巡は目を細めてぱらぱらとめくっている。 「おっ、すごいじゃん。これだけ描いてくれたら、オレ、頑張った甲斐があるな」 「あの……ごめんね、巡。借りておきながら、その、使い切って」  謝罪の言葉に巡は驚いたように目を見開き、わたしの顔をのぞき込む。 「なにを言ってるんだ。むしろ、描いてなかったら怒るところだ。オレさま自らが身体を張ったのに、奏乃が絵に残してくれなかったら、努力が水の泡だろう!」  それが巡流の慰め方だと知り、涙が出そうになった。  それを悟られたくなくて、わたしは顔を逸らす。
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