五*文化祭

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 絵にして映えるドリブルカットの場面を描くことにした。  だけど水彩画だと迫力に欠ける。  それならば……と輪郭を黒のクレヨンでくっきりと描くことにしてみた。  そうすると人物が浮かび上がり、緊迫感が出たような気がする。  色も水彩画のメリットである透明感をわざと出さない方向にしてみると、わたしが苦手とするところをカバーすることができた。  ちょっと高校生らしからぬ幼いできあがりになったような気がしないでもないけど、あの時のはらはらとした気持ちと緊張感を画面に表現できたのではないだろうか。  また切り裂かれたら大変だからと毎日、絵を家に持ち帰った。  巡が行きも帰りも持ってくれているから助かった。  そして、夏休みが終わる前日に無事に完成した。  篠原先生が丁寧に梱包してくれて、絵画コンクールの主催者に送ってくれた。  結果がどうであれ、もうダメだと諦めていたものが間に合って出せたことに満足した。 「巡、ありがとね」 「いや、大したことはしてないよ。頑張ったのは奏乃だろ」  巡は満足そうな笑みを浮かべ、わたしの頭に手を乗せた。  そして軽くはねさせ、いたずらな笑みを向けてきた。  巡がこの表情をするとき、ろくでもないことを考えている合図だ。  わたしは嫌な予感を覚え、巡に警戒した視線を向ける。 「あ、もうばれちゃった?」  やっぱり。  巡が妙に協力的な時は、いつもなにかを企んでいる時なのだ。 「奏乃ちゃんにお願いがあるんだ」  普段は呼び捨てのクセに、こういうときだけ「ちゃん」をつける。 「……協力してもらったから、手伝うけど……」 「さすがだね、奏乃。くくく……」  それはもう、楽しそうに笑っている。相変わらず、最悪だ。
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