五*文化祭

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     **:**:**  そして──なぜかわたしはどこから持ち出してきたのか分からない着物と黒髪のかつらをかぶらされて、教壇の端に座らされている。  少し離れた場所に巡がいて、わたしをにらみつけてデッサンしている。  わたしがモデルをするよりも適切な子がたくさんいると思うんだけど、巡いわく、借りを作りたくない、と。  その点、わたしには断れない理由があり、前貸ししてるんだから付き合えということなのだ。  勝手に手伝ったのはそっちじゃん! と言いたかったけど、巡がいなければ間に合ってなかった訳だし、やっぱり負い目はある。  わたしのせいで今までまったく巡自身の課題に取りかかれてなかったのだから仕方がない。  だけど、わたしみたいな童顔をモデルにしたって仕方がないのではないだろうか。  どんな絵を描くのか聞いてないけど、まさかお稚児さんを描いているってわけではないよね? 「こら、奏乃。そこで百面相するな。描けないだろ。少しうつむきがちに……そう、視線だけはまっすぐ前に」  言われるままの姿勢をとり続けているけど、結構辛い。  まあ、まだ巡をじっと見つめているよりはマシかなぁ。  モデルとはいえ、見つめ合っていたらさすがに恥ずかしい。  巡は午前中一杯を使って、デッサンし終わったようだ。 「奏乃、ありがと。助かった」 「もう、大丈夫?」 「うん、大丈夫」  わたしは大きく息を吐き、立ち上がった。 「あ、ちょっと待って。しばらくそのままで」  巡はクロッキー帳を再度開き、熱心に鉛筆を動かし始めた。  立ったままってのもかなりしんどい。 「……まだ?」 「ん……もうちょっと」  わたしも人のことは言えないけど、巡も集中すると周りが見えなくなるタイプだ。  お昼になったからと部員はみんな、ご飯を食べに出かけてしまった。
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