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「よーっし、できた!」
その声に、かつらをとって着物を脱ぐ。
いくら冷房が効いているといっても、暑い。
この格好で何時間もいた自分を褒めてあげたい。
「ありがとう。これ、演劇部に返してくる」
「巡、さっき描いたの、見せてよ」
「だーめっ」
「なんでよ、けちっ」
巡はクロッキー帳を素早くしまい、わたしのつけていたかつらと着物を受け取ると慌ただしく美術室を出て行った。
「お昼、先に食べておいて」
「はーい」
わたしと巡はいつも、美術室の端でご飯を食べる。
なのでいつもの場所に移動して、お弁当を開く。
一人で食べるのはちょっと淋しいなと思ったけど、空腹に耐えきれずに食べ始める。
お弁当を半分くらい食べ終わった頃に巡は戻ってきた。
「ほれ、モデル代」
そういうと巡は真新しいクロッキー帳をわたしにくれた。
「へ……。でもっ」
「いいから。受け取れって」
この間、巡のクロッキー帳を使い切ってしまった。
買って返さないといけないのはこちらだ。
「でも……」
「いいから。小遣いなくなって、新しいクロッキー帳も買えないんだろ」
図星だ。
この間、 クロッキー帳を買った時にお小遣いを使い切ってしまった。
次のお小遣いまで後数日だから我慢と思っていたところだ。
「じゃあ、お小遣いもらったら返す」
「いらねーよ。クロッキー帳がなくなったのはオレも悪いわけだし」
その言葉に、顔を上げる。
まずいと思ったらしく、巡は口を押さえて顔を背けた。
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