五*文化祭

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「色を重ねてるというより、下に埋まっている色を掘り起こしているみたいに見えるんだよな」 「……それって遠近感がない塗り方をしてるってこと?」 「いや、逆だよ。上に色を盛っていくのが普通なのに、奏乃の場合は削ってるように見えるんだ」  余計に分からない。 「オレの個人的な感覚だから、気にするな」  と言われても、気になる。  色を削ってる……?  そう言われると妙に意識してしまい、色を塗る手が止まる。  その日は結局、あまり進まなかった。 「巡が変なことを言うから、気になって全然進まなかったよ」 「変なこと?」  帰り道。  わたしは巡に苦情を言った。  言った本人はもう忘れてしまっているのか、首をかしげている。 「わたしの塗り方が変だって言うから」 「ああ。変だとは言ってないよ。面白いと言ったんだ」 「それ、どこが違うのよ」  どっちにしても褒め言葉だと思えない。  ぷーっとふくれたら、巡はわたしの頬をつついた。 「そんな顔をしていたら、フグになるぞ」 「なりませんよーっだ」  どうやらからかって、まともに答える気はなさそうだ。  やっぱり、気にするだけ無駄のようだ。 「奏乃が描いているのを見ていたら、そこにはすでになにか描かれていて、それを見つけて発掘しているように見えるんだよ」  さっきよりも分からないその説明に、理解することを諦めた。 「奏乃はオレと違って、才能があるんだな」  そんなことを言われたのはやっぱり初めてで、立ち止まってつい、巡の顔を凝視した。 「なんでもない。気にするな。思った通りに描けなくて、苦しんでるんだ」 「巡でもそんなことがあるんだ」 「あるよ。──いっつも思っている通りにはいかない」  巡の弱音になんと言っていいのか分からない。  いつだって巡は思ったことを思った通りに実行しているようにしか見えないのに。
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