五*文化祭

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「巡はわたしと違って、理想が高いんだよ、きっと」  わたしからすれば、巡はなにをするにも完璧で簡単にこなしているようにしか見えない。  その点、わたしはいつもあがいて、その結果、大したことを残せていない。 「理想が高い……か。そんなこと、ないんだけどな。オレはいつだって七十点くらいしか出来ていない」 「巡にとってはそうかもしれないけど、わたしから見たら、巡はいつでも二百点くらい取ってるよ」 「……ほんと?」  それまで暗く沈んでいたのに急に声のトーンが上がる。 「あ……うん」 「そっかー。オレって実は、天才?」  あれほど落ち込んでいたかのように聞こえたのに、急に巡のテンションがあがる。  ああ……心配して損した。  巡はこういうヤツだった。 「なんだ、元気じゃん」 「なに? 心配してくれた?」  犬がご機嫌にしっぽを振ってるような表情をして、巡はわたしを見る。 「そんなの、するわけないでしょっ」  巡の心配をしたことが恥ずかしくて、つい、そんなことを口にする。  巡は笑みを浮かべ、わたしの頭を腕に抱きかかえ、髪の毛をぐちゃぐちゃにかき乱す。 「奏乃ちゃんったら優しいのねっ」 「だーっ! 髪の毛がぐちゃぐちゃになるっ!」 「もう家に帰るだけだろ。やー、うれしいなぁ」  巡はさんざんわたしの髪をかき乱し、気が済んだのかようやく離してくれた。  なんなの、この子ども扱い。 「絵は文化祭の日に楽しみにしてな」  わたしが住むマンションの前で巡はそう言い、いつものように手を振って見送ってくれた。  完成してもしばらくお預けらしい。  なんだかつまらなくて、巡にあっかんべーとしてやった。
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