五*文化祭

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 クラスに戻ると、明日の準備に教室内は慌ただしい空気を醸していた。  わたしたちのクラスは自分たちの教室を使って、喫茶室をすることになっていた。  最初はメイド喫茶にしよう、執事喫茶がいいと言っていたのだけど、予算の関係上、みんなが家からエプロンを持ち寄って普通にコーヒーと紅茶を出す喫茶店となったのだ。  文化祭を見に来て、意外にお茶を飲む場所がないからそれはいいかもしれない、とわたしたちはやる気になっていた。  教室を半分にして、喫茶スペースとバックヤードに分ける。  仕切り板はないからどこからかカーテンを調達してきて、分ける。  机を並べるだけだとつまらないからと家庭科室からテーブルクロスを借りてきて、それだけでは味気ないから飾りをつけようとなり、わたしはその係になっていた。  だけどわたしが絵を展示している間にあっという間に教室内は飾り付けが終わっていたようで、すっかり別世界になっている。  黒板には「一年二組喫茶室」と書かれている。 「下瀬さん」  同じ準備係の子に声を掛けられた。 「明日の予定なんだけど……」 「いつでも空いてるよ」  時間ごとにローテーションを組んで、給仕をすることになっていた。  美術部の絵はあのまま展示しておいてだれかが見ておくということはしなくてもいいみたいだから、終日フリーだ。 「それじゃあ、この時間をお願いしていい?」  ローテーション表は思ったより空いていて、鉛筆でこことここと指し示される。 「うん、いいよ」  わたしは忘れないようにとポケットからメモ用紙を取り出し、時間を書く。 「ありがとう、助かるわ」  その子はお礼を言うと、慌ただしく離れていった。そして別の子をつかまえて、聞いている。  大変そうだなぁ、なんて人ごとのように見ていたら。 「お、下瀬。いいところにいた!」  にやにやした顔の男子が数名、わたしの前に現れた。
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