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登校して、開会宣言が行われ、文化祭が始まった。
わたしの当番はもう少し後だったので、気になっていた巡の絵を見に行くことにした。
会場は体育館にあり、行くと人はほとんどいなかった。
入口に受付があり、そこに何人か座っている。
わたしは小さく会釈をして、中に入る。
他のクラブの出品も気になったけど、巡の絵に直行することにした。
入ってすぐの場所には生け花が飾られていて、そのブロックを抜けて角を曲がると美術部のゾーンだ。
足早に向かい、角を曲がって──息が止まった。
巡の絵が横長だということは知っていた。
昨日、場所決めをした時も部長がメジャーで測って線を引いて確認をしていたから、ずいぶんと長い絵を描いたんだなと思っていた。
昨日は空いていたところに、黒い背景に浮かび上がるような天女がいた。
ああ、これはかぐや姫の一場面だ。
かぐや姫が実は月に住んでいる者で罪を償うために地球にやってきて刑期が終わったので迎えが来て、月に帰って行くところだ。
古典で習った竹取物語ではかぐや姫は牛車に乗って月に帰って行くと書いてあったような気がしたのだが、巡の絵は違っていた。
左上に満月が描かれていて、それに向かってかぐや姫と思われる天女が飛んでいるのだが、視線は月を見てなくて、うつむいて地上をじっとにらんでいる。
髪と着物をたなびかせ、そこから虹を放っている。
かぐや姫の見ている先は夜だが、後ろは打って変わって、青空が広がっている。
よく見ると、かぐや姫が羽織っている着物は青空と一体化していた。
巡の絵は水彩画の特徴である透明感がよく出ていて、キレイだ。
わたしにはない巡の不思議な発想に、しばらくの間、息をするのも忘れて見入っていた。
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