六*授賞式

6/18
前へ
/249ページ
次へ
「分かったから! 授賞式には行かない! だから、お父さんもお母さんもけんかはやめてっ」  わたしのせいで二人の仲が悪くなるなんて、耐えられない。 「それが当たり前だ。勉強に励むのが学生の本分だ」 「あなた! 勉強、勉強では息が詰まります! それに、勉強しか出来ない子なんて、社会に出たときに困ります」 「奏乃は女なんだから、社会になんて出なくていい。卒業したら、すぐに結婚でもすればいい」  あまりにも古いその考えに、どう返せばいいのか分からない。 「へー。あなたは私を否定するんですね」 「…………」 「悪うございましたわね、トウが立ったような年上の働く女でっ」  お母さんはお父さんと結婚する前、ずっと働いていたという。  お父さんの方が年下で、なんでもお父さんが激しくアタックをした末に結婚したらしい。  お母さんは高齢出産だったこともあり、わたし一人しか産めなかったと言っていた。  そして今は、お母さんは働いてはいない。 「女は働かないでいいなんて、あなたはいつの時代の人間なんですか。私より若いのに、考えが古すぎますっ」  止めたはずなのにますます加熱する二人にわたしはどうすることも出来ずに、自室に戻った。  どうすればいいのか分からなくなってきた。  絵を描くのは大好き。  それが上手いか下手かはともかくとして、目の前に興味深い対象があれば紙に描き写したいという衝動に駆られる。  これはある意味、病気だと思っている。  だからってお金になるとは思えない。  趣味程度にとどめて、大学に通わせてもらって就職して、恩返しをして……なんて、巡じゃないけど面白みのない、だけどそういう道しか思いつかない人生設計しか自分の目の前にはない。  だから今回のことだって、賞を取れたからすぐにそれがお金を稼ぐ手段になるとは思ってないし、そういうつもりでもなかった。  それよりも、頑張ったことを全否定されたことにショックを受けていた。  褒めて欲しくて頑張った訳ではない。  一生懸命やってきたことを認めて欲しかった。  だけど──。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

177人が本棚に入れています
本棚に追加