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そして、授賞式の日。
今日は土曜日で、学校は休みだ。
わたしはそのことを意識しないようにと、珍しく朝から宿題に取りかかっていた。
遠くでインターホンが鳴るのが聞こえる。
「奏乃ー」
キッチンから、お母さんが呼ぶ声。
「学校の先生と巡くんが来てるわよ」
どうして来ているのか分からなくて、慌てて玄関に向かう。
「おい、奏乃。どうして私服を着てるんだよ」
「え?」
制服の巡と、スーツ姿の篠原先生がいた。
訳が分からなくて、戸惑う。
「先生が同行するから、行きましょう」
「ど、どこに?」
「どこって決まってるだろ、授賞式だよ」
「え、わたし、行けない」
お父さんに行かないと言った手前、行きたくても行くなんて言えない。
玄関でやりとりをしているのをいぶかしく思ったお父さんがリビングからやってきた。
「下瀬さんのお父さまですか」
「……そうですが」
かなり警戒をしたお父さんの声にわたしは逃げたくなる。
「わたくし、千川原高校の美術部の顧問をさせていただいている篠原と申します。この度はお嬢さまが高校生絵画コンクールで受賞をされて、おめでとうございます」
お父さんの表情が一気に曇っていく。
「奏乃、今のうちに着替えてこい」
巡のつぶやきに戸惑うばかりだ。
「でも……」
一触即発と言わんばかりのお父さんと篠原先生の空気にわたしはどうすればいいのか分からない。
お母さんがわたしをここから追い出すように背中で押してきて、部屋に戻された。
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