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どうすればいいのか分からない。
だけどこの場にいたくなくて、わたしは逃げるように巡とお父さんの横を駆け抜けて玄関に向かう。
靴を履き、篠原先生に守られるようにして家を出る。
篠原先生に腕を引かれて、駅へと向かった。
切符は篠原先生がすでに用意してくれていたようで、手渡された。
改札を通る。
ホームに行き、ようやく口を開くことが出来た。
「あの……」
「皆本くんがね、相談に来てくれたの」
篠原先生は安堵のため息を吐きながら、わたしを見ている。
「……巡が?」
「ええ。そろそろ結果が出た頃なのに下瀬さんからなにも言ってこないんだけど、どうだったんだって。賞をもらえたから授賞式には行くでしょと話を振ったら……下瀬さんからそんな話を聞いてないっていうし、下瀬さんからも私になにもなかったからおかしいわねってなったの」
巡に授賞式に行かないなんて言ったらなんでと聞かれるから、黙っていた。
巡が手伝ってくれたおかげで賞が取れたのに、それをお父さんに全否定されたのが辛くて、悔しかった。
巡のがっかりした顔を見たくなくて、だから黙っていた。
それなのに……。
「はー、悪い。間に合ってよかったぁ」
息を乱して走ってきた巡が後ろからやってきた。
「奏乃のお母さん、強いな。お父さんを押さえて『奏乃について行ってあげて!』なんて」
どういう顔をすればいいのか分からず、うつむいた。
それと同時に、アナウンスが流れる。
電車が滑り込むようにホームに入ってきて、止まる。
中から人があふれ出し、わたしたちは降りたのを確認して、乗り込む。
三人並んで座ったけど、なにを言えばいいのか分からない。
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