六*授賞式

11/18
前へ
/249ページ
次へ
「どうして……」  電車が動き出し、しばらくしてそれだけ言えた。 「簡単な話だよ。奏乃の様子が変だったし、結果がどうであれ、律儀な奏乃がオレに報告しないってのがおかしいなと思ってさ」  巡をごまかすことなんて出来ないってことか。  なんだかものすごく申し訳ない気持ちがいっぱいになって、スカートを握りしめた。  握りしめた拳の上に、巡がそっと手を添えてくれた。  そのぬくもりに泣きそうになっていた気持ちが少しだけ救われた。 「たまにいらっしゃるのよね。芸術系を無駄だと思って一切、価値を認めてくださらない人」  左隣に座っている篠原先生は苦笑混じりの悲しそうな声で、ぽつりとつぶやいた。 「無理して認めてもらおうとしても、かたくなに反発するだけだと思うから……。難しいわよね、ほんと」  それからわたしたちは無言のまま、電車に揺られていた。  巡はずっと、わたしの手の甲を温めてくれていた。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

177人が本棚に入れています
本棚に追加