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「どうして……」
電車が動き出し、しばらくしてそれだけ言えた。
「簡単な話だよ。奏乃の様子が変だったし、結果がどうであれ、律儀な奏乃がオレに報告しないってのがおかしいなと思ってさ」
巡をごまかすことなんて出来ないってことか。
なんだかものすごく申し訳ない気持ちがいっぱいになって、スカートを握りしめた。
握りしめた拳の上に、巡がそっと手を添えてくれた。
そのぬくもりに泣きそうになっていた気持ちが少しだけ救われた。
「たまにいらっしゃるのよね。芸術系を無駄だと思って一切、価値を認めてくださらない人」
左隣に座っている篠原先生は苦笑混じりの悲しそうな声で、ぽつりとつぶやいた。
「無理して認めてもらおうとしても、かたくなに反発するだけだと思うから……。難しいわよね、ほんと」
それからわたしたちは無言のまま、電車に揺られていた。
巡はずっと、わたしの手の甲を温めてくれていた。
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