177人が本棚に入れています
本棚に追加
「巡……ごめんね」
「なんだ、急に」
巡にはいつも、迷惑ばかり掛けている。
いつもお礼を言うタイミングを逃しているから、今までのことを含めて、口にした。
「巡に色々してもらってるのに、わたしは……」
「へー、そんなこと、気にしてたんだ」
横に並んで歩いている巡の視線を感じる。
わたしはうつむいたまま、足をすすめる。
「奏乃の描く絵が好きだから、もっとたくさん見たいんだよ」
好き、という単語にどきっとしたけど、それはわたしの描く絵に対しての言葉と知り、安堵した。
巡がわたしを好きなんて、あり得ない。
「巡の方が、上手だよ」
視線を上げて巡を見ると、複雑な表情をこちらに向けてきた。
それはなんと言えばいいのか分からない、表情。
困ったような、うれしいような、色んな感情が入り交じった表情。
「……上手いのは確かだ」
眉間にしわを寄せた表情をすると、巡は不敵な笑みを浮かべた。
「オレって天才だから、なんでもちょちょっと出来てしまうわけですよ」
巡の軽口に、だけどそれは事実だから否定は出来ない。
巡は勉強もスポーツも絵だってなんでも簡単に上手にこなしてしまう。
わたしは何事も一生懸命にやって、ようやく人並みだ。
「……あれ? ツッコミなし?」
「うん」
拍子抜けしたのか、巡はずっこける真似をした。
おかしくて、くすくすと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!